
- 学校法人の消費税の計算方式には①本則課税方式と②簡易課税方式があり、どちらかを選択する必要があります。
- 本則課税方式と簡易課税方式の違いは仕入税額控除(差し引く仕入等の消費税額)の計算方法の違いです。
- 学校法人の場合は、簡易課税方式を採用した方が消費税の計算が有利になることが多いです。
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学校法人の消費税の計算方法は、本則課税方式が原則ですが、簡易課税方式を採用できる場合があります。
簡易課税方式を採用できる場合、本則課税方式と簡易課税方式の消費税の納税額を比較して、有利な方を採用することになります。
ただし、学校法人の場合、簡易課税方式を採用できるならば、簡易課税方式を採用した方が消費税の計算が有利になります。
そこで、今回は簡易課税方式の内容を確認するとともになぜ学校法人では簡易課税方式を採用した方が良いのかを見ていきましょう。
簡易課税方式の適用要件
簡易課税方式の適用要件は次の2つです。
- 基準期間の課税売上高が5,000万円以下であること
- 「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出していること
基準期間の課税売上高が5,000万円以下であること
簡易課税方式を採用するためには①基準期間の②課税売上高が5,000万円以下であることが必要です。
基準期間とは実際消費税を支払うことになる事業年度の前々事業年度のことです。
学校法人の場合、事業年度は4月1日~3月31日までと決まっていますので、例えば、×3年度(×3年4月1日~×4年3月31日)に簡易課税方式を選択できるか判断するのならば、その前々年の×1年度(×1年4月1日~×2年3月31日)が基準期間になります。
また、ただの売上高ではなく、「課税」売上高が5,000万円以下であることに注意してください。
学校法人の収入(=売上高)の大部分は教育研究事業によるもので、生徒から受け取る授業料等は非課税となり、国・地方公共団体から受け取る補助金などは不課税になります。
つまり、「課税」売上高に該当するものは、①学校指定品販売収入・②入学案内書頒布収入、③給食代収入、④施設設備売却収入、⑤施設設備利用料収入など一部の収入(=売上)についてのみです。
そう考えると、「課税」売上高が5,000万円以下に該当する学校法人は意外に多いです。

「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出していること
消費税の簡易課税方式を採用するためには、税務署に課税期間の開始日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。
つまり、×3年度(×3年4月1日~×4年3月31日)に消費税の簡易課税方式を採用したいのならば、×3年3月31日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。
本則課税方式の計算方法
まずは、本則課税方式の場合の消費税の計算方法から確認していきましょう。
消費税額 = 課税売上げに係る消費税額 - 課税仕入れ等に係る消費税額(仕入税額控除といいます)
- 売店のパンの売上が1,100円(消費税100円含む)あり、そのパンを仕入れるために550円(消費税50円含む)かかったとします。
この場合の本則課税方式で支払う消費税額はいくらになるでしょうか。 - 解答:本則課税方式で支払う消費税は50円になります。
解説:課税売上げに係る消費税額 100円-課税仕入れ等に係る消費税額 50円=50円
簡易課税方式の計算方法
次に、簡易課税方式の場合の消費税の計算方法を確認していきましょう。
消費税額 = 課税売上げに係る消費税額 - 課税売上に係る消費税額×みなし仕入率※
※ みなし仕入率は学校法人が行っている事業の内容によって異なります。代表例は以下の通りになります。
区分
|
業種
|
みなし仕入率
|
学校法人の事業収入
|
---|---|---|---|
第1種
|
卸売業
|
90%
|
-
|
第2種
|
小売業
|
80%
|
入学案内書頒布収入
指定品販売収入 |
第3種
|
製造業等
|
70%
|
-
|
第4種
|
その他の事業
|
60%
|
車両・機器備品売却収入
給食代収入 |
第5種
|
運輸通信業
サービス業 金融業及び保険業 |
50%
|
スクールバス収入
コピー使用料収入 保険代理収入 |
第6種
|
不動産業
|
40%
|
施設設備利用料収入
(教室・グランド・駐車場の賃貸収入) |
- グランドの貸し出しを行っており、施設設備利用料収入が11,000円(1,000円の消費税含む)があります。
この場合の簡易課税方式で支払う消費税額はいくらになるでしょうか? - 解答:簡易課税方式で支払う消費税額は600円になります。
解説:課税売上げに係る消費税額 1,000円-課税売上げに係る消費税額 1,000円×みなし仕入率 40%=600円
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簡易課税方式の方が有利になりやすい理由
学校法人の場合、本則課税方式と簡易課税方式のどちらも採用できるならば、基本的に簡易課税方式を採用した方が消費税法上有利になりやすいです。
理由は2つあります。
- 消費税の納税額の計算が本則課税方式に比べて圧倒的に楽
- 消費税関連業務の支払「総額」が安くなりやすい
消費税の納税額の計算が本則課税方式に比べて圧倒的に楽
なぜ、簡易課税方式の方が計算が楽なのかは、本則課税方式と簡易課税方式の2つの計算式を見比べれてみれば分かります。
- 本則課税方式は①課税売上げに係る消費税額と②課税仕入れ等に係る消費税額の2つを把握しなければならない
- 簡易課税方式は①課税売上げに係る消費税額のみを把握すればよい
簡易課税方式の場合、「課税仕入れ等」に係る消費税額を把握するのが煩雑なため、「課税売上げ」に係る消費税額×みなし仕入れ率で「課税仕入れ等」に係る消費税額の代用しようというものでした。
課税仕入れ等に係る消費税額は、教育研究経費支出や管理経費支出などの仕訳から生じ、学校法人が行う仕訳の大部分を占めています。
この大部分の仕訳について、簡易課税方式では消費税の判定を行わなくて済むので非常に楽です。
実務上は本則課税方式の課税仕入れ等に係る消費税額の判定をどこまで精密に行うかにもよりますが、簡易課税方式を採用した方が圧倒的に仕訳担当者や経理責任者の確認時間を短縮できます。
消費税関連業務の支払「総額」が安くなりやすい
学校法人の場合、学納金(「非課税」売上高)や補助金(「不課税」売上高)などがあるため、全体の収入に比べて「課税」売上高になる収入は限定的です。
つまり、本則課税方式を採用した場合、課税仕入れ等に係る消費税額(仕入税額控除)が圧倒的に少額になります。
一方、簡易課税方式を採用した場合、課税仕入れ等に係る消費税額(仕入税額控除)の代わりに課税売上に係る消費税額×みなし仕入率が課税売上げに係る消費税額から差し引かれます。
そして、みなし仕入率は最低でも40%以上のため、本則課税方式と違い、一定額が差し引けることになります。
また、本則課税方式でも簡易課税方式でも、どちらも消費税を計算するために経理部の人員に対する人件費や税理士に対する業務委託費が発生することになります。
ただし、簡易課税方式を採用した場合、本則課税方式を採用した場合に比べて、圧倒的に消費税計算に係る工数が節約できますので、人件費・業務委託費ともに安価になります。
以上を鑑みて、簡易課税方式を選択した方が本則課税方式を採用した場合に比べて、消費税関連業務の支払「総額」が安くなりやすいです。

まとめ
学校法人の消費税について、一般事業会社等と同じように本則課税方式と簡易課税方式の細かい納税額のシミレーションを行うことも可能ですが、検討に時間と工数を要する割りに結果的に簡易課税方式の一択になる場合が多いです。
ただし、学校の建物などを建て直したり、拡張する場合などは課税仕入れ等に係る消費税額(仕入控除税額)が大きくなり、本則課税方式の方が有利になる場合もありますので、施設が古い学校法人などでは注意が必要です。
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