
- 学校法人の消費税の計算では個別対応方式と一括比例配分方式の選択が必要になります。
- 個別対応方式・一括比例配分方式とは売上高(=収入)を得るために費やした仕入・経費の消費税(仕入税額控除)の計算方法です。
- 個別対応方式を採用すると一括比例配分方式より消費税額が少なくなる可能性が高いです。
- 一括比例配分方式を採用すると個別対応方式より消費税の計算が簡単になります。
- どちらを選択するか迷った場合は、貴学校法人の経理の管理体制で判断してください。
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消費税の計算方法について
個別対応方式と一括比例配分方式を理解する前提として、消費税の計算方法が重要になりますので、まずは以下の計算式を確認して下さい。
消費税額 = 課税売上げに係る消費税額 - 課税仕入れ等に係る消費税額(以下、仕入税額控除)
つまり、消費税額の計算方法は、売上高(=収入)から生じた消費税-それを得るために費やした仕入・経費の消費税ということになります。
個別対応方式・一括比例配分方式とは?
では、個別対応方式・一括比例配分方式とは一体なにかというと仕入控税額控除の計算方法ということになります。
仕入税額控除の計算方法は①全額控除方式、②個別対応方式、③一括比例配分方式、④簡易課税方式の4つに区分されます。

全額控除方式は、学生生徒等納付金収入などの非課税売上高が多い学校法人ではなかなか要件を満たすことが難しいです。
よって、実務的には個別対応方式、一括比例配分方式、簡易課税方式の3択になります。
なお、簡易課税方式は、選択要件が限られており、詳しい説明は、「消費税の簡易課税方式とは?学校法人での本則課税方式との比較検討」で別途説明していますので、ご興味があればそちらを見てください。。
個別対応方式について
個別対応方式を採用する場合、学校法人が支払う仕入・経費に含まれる消費税を「売上高区分を基準に」以下の3つに区分します。
- 課税売上高に対応する仕入・経費の消費税
- 非課税売上高に対応する仕入・経費の消費税
- 課税売上高・非課税売上高の両方に対応する仕入・経費の消費税
消費税の計算式の左辺は「課税売上げに係る」消費税額でしたよね?
ということは、差し引き計算する右辺の仕入税額控除も「課税売上の元になる」消費税額である必要があります。
個別対応方式の場合、「課税売上の元になる」消費税額は1.課税売上高に対応する仕入・経費の消費税と3.課税売上高・非課税売上高の両方に対応する仕入・経費の消費税になります。
ただし、3.課税売上高・非課税売上高の両方に対応する仕入・経費の消費税には、一部「非課税売上高に対応する」仕入・経費の消費税額が含まれています。
そこで、3.課税売上高・非課税売上高の両方に対応する仕入・経費の消費税については、課税売上高と非課税売上高に対する課税売上高の割合(以下、課税売上割合といいます)で調整することになります。
以上を踏まえ、個別対応方式の計算式を確認してみましょう。
仕入控除税額 = 「課税売上高」に対応する仕入・経費の消費税 + 「課税売上高」・「非課税売上高」の両方に対応する仕入・経費の消費税 × 課税売上割合
最後に設例で個別対応方式での消費税額を確認してみましょう。
- 課税売上高11,000円(税込み)、仕入・経費に係る消費税600円(課税売上のみに係るもの200円、非課税のみに係るもの100円、両方の売上に係るもの300円)、課税売上割合20%、消費税率10%の時の消費税額を計算してください。
- 解答:消費税額は740円になります。
解説:課税売上高に含まれる消費税額11,000円÷1.1×0.1=1,000円
1,000円-(200円+300円×20%)=740円
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一括比例配分方式について
一括比例配分方式は、学校法人が支払う仕入・経費に含まれる消費税「全体」を課税売上高・非課税売上高の両方に対応する消費税と「みなして」消費税額を計算する方法です。
個別対応方式のように、学校法人が支払う仕入・経費に含まれる消費税を「売上高区分を基準に」区分するのではなく、学校法人が支払う仕入・経費に含まれる消費税の「全体」を課税売上高・非課税売上高の両方に対応する仕入・経費の消費税と「みなしてしまう」計算方法です。
一括比例配分方式の計算式を確認してみましょう。
仕入控除税額 = 仕入・経費に含まれる消費税全体 × 課税売上割合
最後に設例で一括比例配分方式での消費税額を確認してみましょう。
- 課税売上高11,000円(税込み)、仕入・経費に係る消費税600円、課税売上割合20%、消費税率10%の時の消費税額を計算してください。
- 解答:消費税額は880円になります。
解説:課税売上高に含まれる消費税額11,000円÷1.1×0.1=1,000円
1,000円-600円×20%=880円
個別対応方式と一括比例配分方式の比較
個別対応方式と一括比例配分方式のどちらを選択すべきかはそれぞれの学校法人によって異なります。
そこで、以下に個別対応方式又は一括比例配分方式を採用した時のメリットを記載しておきます。
- 学校法人は学生生徒納付金収入など非課税売上高が多く、課税売上割合が低くなる傾向にあり、個別対応方式を採用した方が消費税額が少なくなる場合が多い。
- 課税売上割合に著しい変動が生じても、前年度の課税売上割合を利用できる等、一定の救済措置(課税売上割合に準ずる割合といいます)が利用できる。
- 途中で一括比例配分方式に変更するのは自由(一括比例配分方式から個別対応方式への変更は2年間できない)。
- 学校法人が支払う仕入・経費に含まれる消費税を区分しなくてもよいので、仕訳・税務申告書の作成が楽。
- 学校法人が支払う仕入・経費に含まれる消費税を区分しなくてもよいので、仕訳の間違いが減り、消費税額の計算誤りが減る。
選択を迷ったら管理体制で考える
個別対応方式の最大のメリットは消費税額が一括比例配分方式に比べて少なくなる場合が多いことです。
その他のメリットは、校舎などを建築した時に課税売上割合が大きく変動してしまった場合の保険的なメリットです。
一括比例配分方式を採用した時のメリットは手間がかからないことと税務リスクを低く抑えられることです。
結局どちらを選択したらいいかを迷った場合は、貴学校法人の経理の管理体制で考えると良いでしょう。
個別対応方式を採用する場合、課税仕入れ等に係る消費税額の「売上高に対する」区分が求められます。
この区分を①仕訳を行う部署できちんと判断・チェックできる体制が整えらえているか、②そもそも区分するだけの知識を仕訳担当者が保持しているかが非常に重要になります。
もし、経理の管理体制に少しでも不安があるのならば、一括比例配分方式を採用する方がお勧めです。
一括比例配分方式ならば、経理部の負担が少なくなり、税務リスク(追徴課税など)が個別対応方式より格段に減るので、過度なストレスを感じることが減ります。
最終判断は経理責任者等が行うことになりますが、貴法人の経理の管理体制の実態を正確に把握し、慎重に判断することが必要になります。
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